「安定を取るなら公務員、収入を取るなら公認会計士」——そんな単純な話でもありません。
私は地方公務員としてキャリアをスタートし、その後国税専門官に転職、働きながら公認会計士試験に合格して監査法人・税理士法人へと転身しました。両方の立場を実際に経験しているからこそ見える違いがあります。
この記事では、公務員と公認会計士を「年収」「退職金・福利厚生」「安定性」「やりがい」「試験の難易度」「キャリアの柔軟性」という6つの軸で比較します。どちらが優れているという話ではなく、自分に合っているのはどちらかを判断する材料として使ってください。
年収の違い
公務員の年収
国家公務員の平均年収は640〜700万円程度、地方公務員は600万円程度とされています(人事院データ等より)。年功序列で緩やかに上がっていく給与体系のため、若いうちは物足りなく感じることもありますが、年齢を重ねるごとに着実に積み上がっていきます。
公認会計士の年収
公認会計士の平均年収は1,043万円というデータがあります(公認会計士の年収リアル|監査法人・事業会社・独立まで徹底比較で詳しく解説しています)。ただし、これはあくまで平均であり、監査法人の職位・年次によって大きく変わります。若手のうちから公務員を上回る水準に到達しやすいのが特徴です。
💬 著者コメント
国税専門官から監査法人に転職した際、実は一時的に年収が下がりました。監査法人では、社会人経験があっても新卒と同水準の給与からスタートするのが一般的だからです。修了考査に合格してからようやく逆転し、そこから収入は伸びていきました。公認会計士は「試験に合格するまでの投資期間」に加えて、転職直後のこうした年収減も見込んでおく必要があります。数年間の勉強期間・予備校費用も含めたトータルで見れば、単純に「会計士の方が得」とは言い切れない部分もあります。
退職金・福利厚生の違い
年収だけでなく、退職金や福利厚生まで含めて比較すると、印象はさらに変わります。
公務員の退職金・福利厚生
公務員が定年まで勤め上げた場合の退職金は、国家公務員・地方公務員ともに平均2,100万円台とされています。これに加えて、共済組合による医療保険・年金、各種手当(住居手当・扶養手当・地域手当など)、産休・育休制度の運用の手堅さなど、福利厚生面での安定感は非常に高い水準にあります。
公認会計士(監査法人)の退職金・福利厚生
監査法人の退職金は、一般的に「月額給与×支給率×勤続年数」で算出されます。特にBIG4など大手監査法人では、1つの法人でフルキャリア(30年以上)を勤め上げる人は少数派です。10年以内に半数以上が離職し、20年以内には9割以上が退職するという指摘もあるほど流動性が高く、キャリアアップや新天地を求めて転職・独立していくのが一般的なキャリアです。マネージャー・パートナーへ昇格できるのも一握りで、「定年まで勤めた場合の退職金」という前提自体が当てはまりにくいのが実情です。
一方、中小監査法人の中には離職率1%以下という法人もあり、大手ほど流動性が高いとは限りません。法人の規模やカルチャーによって、退職金・勤続の実態は大きく異なります。独立開業すれば、退職金という概念自体がなくなり、老後資金は自分自身で積み立てる必要があります。
つまりこれは、単純な金額の大小というより制度設計そのものの違いです。公務員は長期勤続を前提に、退職金という形で老後の保障をまとめて作る仕組みになっています。一方、公認会計士はそもそも1つの組織に長くとどまらないキャリアモデルが一般的なため、退職金という形での保障をあまり期待できない代わりに、現役時代の年収そのものが相対的に高く設定されている、と捉えるのが実態に近いでしょう。
💬 著者コメント
国税専門官時代は正直、退職金のことなど意識していませんでした。監査法人に転職してから「積み上がる退職金がほとんどない」という現実に気づき、少し驚いた記憶があります。年収の高さだけを見て公認会計士を目指すと、退職金・福利厚生という長期的な視点が抜け落ちがちです。トータルで見てどちらが自分に合っているか、慎重に考える価値があります。
安定性の違い
公務員の安定性
公務員の最大の強みは、雇用がほぼ保証されていることです。よほどの不祥事がない限り解雇されることはなく、景気の波にも左右されません。年収の伸びは緩やかですが、確実に積み上がっていく安心感があります。
公認会計士の安定性
公認会計士は「資格」という形で安定性を得るタイプです。特定の組織に依存せず、監査法人・事業会社・独立開業など複数の選択肢を持てるため、ある会社がダメになっても他に移れるという意味での安定性があります。ただし、これは雇用の保証ではなく市場価値による安定であり、専門性を維持し続ける努力が前提になります。
つまり、公務員は「守られる安定」、公認会計士は「自分で作る安定」という違いがあります。
やりがい・仕事内容の違い
公務員の仕事
公務員の仕事は、税務・福祉・教育・インフラ整備など、国民・住民の生活基盤を支える行政サービスです。分野は幅広く、住民や事業者と直接向き合う仕事もあれば、制度設計・予算編成のような後方業務もあります。社会の基盤を支えているという公共性の高さにやりがいを感じる人が多い一方、成果が給与に直結しにくく、裁量の幅が組織のルール・前例に縛られやすい面もあります。
公認会計士の仕事
公認会計士の仕事は監査だけではありません。監査法人での監査業務のほか、税理士法人での税務、コンサルティングファームでのM&A支援・事業再生、事業会社での経理・財務・経営企画など、選ぶ職種によって仕事内容は大きく異なります。
監査業務自体にも、資本市場の信頼性を支えるという公共性の高い側面があります。その意味では、公務員と完全に対極にあるわけではありません。ただし、公務員が制度の枠内で行政サービスを提供する立場であるのに対し、公認会計士は専門性を武器にクライアントへ価値を提供する立場という違いがあり、成果と裁量の幅は総じて大きくなりやすい傾向があります。
💬 著者コメント
国税専門官時代は「調査する側」でしたが、税理士法人に移ってからは「クライアントの利益を守る側」という対照的な立場を経験しました。監査法人時代は少し違い、独立した立場から企業の財務情報を評価する仕事でした。それぞれ違う視点を経験したからこそ、今は状況に応じてバランスの取れた提案ができていると感じています。
試験の難易度・取得コストの違い
公務員試験
一口に「公務員試験」といっても、目指す仕事の種類によって試験区分が分かれています。
- 国家総合職:中央省庁の幹部候補を目指す試験で、公務員試験の中では最難関
- 国家一般職:中央省庁・出先機関の一般的な行政事務を担う試験。最も受験者数が多い区分
- 国家専門職:国税専門官・財務専門官・労働基準監督官など、特定分野の専門知識が問われる試験。私が受験したのもこの区分です
- 地方上級・市役所:都道府県庁・政令指定都市・市区町村の職員を目指す試験。自治体によって難易度・出題内容が異なる
このうち、大卒程度の国家一般職・国家専門職・地方上級クラスであれば、必要な勉強時間の目安は800〜1,500時間程度、学習期間は半年〜1年が一般的です。国家総合職はこれより勉強量が増える傾向がありますが、それでも公認会計士試験ほどの負荷ではありません。
なお、専門職試験は分野によって得意・不得意が分かれやすく、必ずしも一般職・地方上級より難しいとは限りません。国税専門官の試験も一般教養科目は課されますが、それに加えて経済・会計分野の専門科目の配点が大きく、私自身はそこを得意としていたこともあり、地方上級試験より取り組みやすいと感じました。
なお、これらはいずれも新卒者を中心とした「大卒程度」試験の場合です。これとは別に、民間企業等での職務経験者を対象にした「社会人経験者採用」という中途採用枠が、国家・地方それぞれの試験区分に用意されています。民間企業等での勤務年数がおおむね4〜5年以上(役職によっては10年以上)という要件があるのが一般的で、年齢上限は自治体によって異なりますが、59歳まで受験可能とするところもあり、実質的に上限がないケースも増えています。教養試験・論文・面接が中心で専門試験が課されないケースも多く、必要な勉強時間は300時間程度とさらに短くなる傾向があります。その代わり、職務経歴・論文・面接での評価比重が高く、それまでのキャリアをどう語れるかが合否を左右します。
公認会計士試験
公認会計士試験の合格率は7%台(公認会計士試験の概要|試験科目・合格率・勉強時間をわかりやすく解説で詳しく解説)と、公務員試験より格段に狭き門です。必要な勉強時間も3,000〜5,000時間程度が目安とされ、社会人が働きながら合格を目指す場合は数年単位の長期戦になります。
つまり、公務員は「短期間で確実に」、公認会計士は「長期間かけてでも高いリターンを」という取得コストの違いがあります。
キャリアの柔軟性の違い
公務員のキャリアの柔軟性
公務員は組織内でのキャリアパスが明確な一方、転職市場では培った経験・専門性が伝わりにくく、選択肢が限られがちです。ただし職種によっては、専門知識を活かした転身ルートが用意されていることもあります。例えば国税専門官の場合、税理士試験の免除制度を活用して税理士法人・会計事務所へ転身するルートがあります(詳しくは国税専門官からの転職リアル|いつ動く?どこに行ける?免除制度の活用まで解説で解説)。とはいえ、こうした専門職ならではの転身ルートは一部の職種に限られ、業種を問わない自由な転職がしやすいとは言えません。
組織の中にいる間の自由度も高いとは言えません。異動・転勤は組織都合で決まることが多く、自分の希望が通るとは限りません。数年おきの部署異動や、転勤を伴う異動も珍しくなく、キャリアの方向性を自分でコントロールしにくい面があります。
公認会計士のキャリアの柔軟性
公認会計士は、監査法人・事業会社・コンサルティング・独立開業など、資格を軸に幅広い選択肢を持てます。会計・税務業界未経験でも監査法人に就職できるという特徴もあり、キャリアの選択肢の広さでは公認会計士に軍配が上がります。
副業のしやすさにも違いがあります。公務員は国家公務員法・地方公務員法により、副業が原則禁止されています。一方、公認会計士には法律上そうした制限はなく、勤務先(監査法人など)の内部規定の範囲内であれば、執筆・セミナー登壇・顧問業務など、専門性を活かした副業に取り組む余地があります。
組織に所属した場合も、公務員に比べれば自由度は高めです。専門職として採用される以上、担当業務が大きく的外れになるケースは比較的限られますし、今の組織に不満があれば転職・独立という選択肢を自分の意思で取れます。「組織に居続けるしかない」公務員に対し、「合わなければ動けばいい」というのが公認会計士のキャリアの特徴です。
どんな人が向いているか
公務員が向いている人
- 安定した雇用・収入を最優先したい人
- 公共性の高い仕事にやりがいを感じる人
- 短期間の勉強で資格・職を得たい人
公認会計士が向いている人
- 専門性を武器に市場価値を高めたい人
- 複数のキャリアの選択肢を持っておきたい人
- 数年単位の投資期間を許容できる人
どちらが「正解」ということはなく、何を優先するかによって答えは変わります。
まとめ
公務員と公認会計士は、それぞれ異なる種類の「安定」と「リターン」を提供してくれます。
- 年収:公務員は600〜700万円程度、公認会計士は平均1,043万円だが変動幅も大きい
- 退職金・福利厚生:公務員は定年退職金2,100万円台+手厚い福利厚生、公認会計士は退職金が小さくなりやすく独立開業なら退職金自体がない
- 安定性:公務員は「守られる安定」、公認会計士は「自分で作る安定」
- やりがい:公務員は公共性、公認会計士は専門性と裁量
- 試験の難易度:公務員は800〜1,500時間、公認会計士は3,000〜5,000時間
- キャリアの柔軟性:外部への転職選択肢、組織内での異動・配属の自由度、副業のしやすさ、いずれも公認会計士の方が高い
私自身は公務員から公認会計士へとキャリアを動かしましたが、それが誰にとっても正解とは限りません。自分が何を優先したいのかを整理したうえで、判断材料の一つとして使ってもらえればと思います。
公務員から公認会計士への転身を具体的に考えている方は、公務員から公認会計士への転職|元公務員からのキャリアチェンジのリアルも参考にしてください。


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