「簿記2級に合格したら、次は1級を目指すべきなのか」
2級まで来ると、こう悩む方は多いと思います。
ただ、目的によっては、1級を目指すよりも先に進むべき選択肢がある場合もあります。
この記事では、1級の概要・難易度・就職での評価を整理したうえで、「取るべき人・そうでない人」を具体的に解説します。
簿記1級とはどんな資格か
この記事でいう「簿記1級」は、**日商簿記1級(日本商工会議所主催)**を指します。簿記検定には全経簿記・全商簿記など複数の種類がありますが、一般的に就職・転職の場面で評価されるのは日商簿記です。以下の解説もすべて日商簿記を前提としています。
3級・2級が「個人商店の帳簿」「株式会社の会計処理」を扱うのに対して、1級は上場企業レベルの財務会計・管理会計・原価計算・商業簿記を横断的に学びます。
試験の概要は以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主催 | 日本商工会議所 |
| 試験形式 | 統一試験のみ(CBT試験なし) |
| 試験時期 | 年2回(6月・11月) |
| 試験科目 | 商業簿記・会計学・工業簿記・原価計算(各25点・合計100点) |
| 合格基準 | 合計70点以上、かつ各科目10点以上(足切りあり) |
| 合格率 | 約10〜15%(年度により変動) |
| 必要な勉強時間の目安 | 500〜1,000時間(2級取得後の上積み) |
(出典:日本商工会議所 公式サイト)
合格率は年によってばらつきがありますが、10%前後で推移しています。2級の合格率が20〜30%程度であることと比べると、難易度の差は大きいです。
なぜ「1級=意味がある」と思われているのか
従来、簿記1級を目指す理由としてよく挙げられたのは、以下の2つでした。
- 税理士試験の受験資格を得るため
- 会計知識の到達点として、就職・転職で評価されるため
しかし、この2つの理由はいずれも、現在では再考が必要です。
大きく変わった「税理士試験受験資格」
以前は、高校卒業者が税理士試験を受験するには「日商簿記1級(または全経簿記上級)に合格すること」が条件の一つでした。
そのため、「税理士を目指すために簿記1級を取る」という流れが一定数ありました。
しかし、令和5年度の税制改正(2023年)により、税理士試験の受験資格が大幅に緩和されました。
改正後は、簿記資格がなくても税理士試験を受験できるようになっています。受験資格の詳細は科目によって異なるため、日本税理士連合会の公式情報をご確認ください。
つまり、「税理士試験の受験資格のために1級が必要」という理由は、現在ではほぼ消滅しています。
税理士試験について詳しくは、税理士試験とは|科目・合格率・免除制度をわかりやすく解説をご覧ください。
転職・就職での評価はどうか
「簿記1級を持っていると、就職・転職で有利になる」という話もよく聞きます。
これは部分的に正しいですが、1級の価値はポジションによって大きく異なります。
| 目指すポジション | 1級の位置づけ |
|---|---|
| 中小企業などの一般的な経理職 | 2級で採用要件を満たすことが多い。1級は加点程度 |
| 上場企業・グループ会社の経理・財務 | 実務経験と組み合わせると高く評価される。実務未経験でも若い年齢で1級を持っていれば、同年代の未経験者より有利に働く場合がある |
| 公認会計士・税理士を目指す人 | 上位資格の取得が本来の目標になるため、1級は通過点の位置づけ |
なお、ここでいう転職先は主に一般企業の経理職を想定しています。会計事務所・税理士法人・監査法人といった会計業界では、状況が異なります。
会計業界は人手不足の傾向があり、未経験採用に比較的柔軟です。ただし、簿記1級よりも税理士試験の科目合格や公認会計士試験の短答・論文合格を持っている方が、採用の場面で直接評価されやすいです。会計業界でのキャリアを目指す場合は、1級にとどまらず上位資格を視野に入れることも選択肢になります。
ただし、会計業界も年齢が全く関係ないわけではありません。上位資格の取得に時間をかけすぎると、それ自体が年齢リスクになりえます。「いつまでに何を取るか」という見通しを持ったうえで動くことが大切です。
経理職の求人では「簿記2級以上」が要件になっていることが多く、1級は「あれば加点」程度です。
1級を取得するために費やす500〜1,000時間を、業務経験の積み上げや上位資格の勉強に使う方が、キャリアへの影響は大きい場合がほとんどです。
転職・キャリアアップでの1級の価値は「実務経験の有無」で大きく変わる
転職目的で1級を考えている場合、実務経験があるかどうかで話がまったく変わります。
実務経験がある人:1級はキャリアアップの武器になる
すでに経理実務を積んでいる人にとって、簿記1級は明確な強みになります。
「実務経験あり+簿記2級」より「実務経験あり+簿記1級」の方が、上場企業やグループ会社の経理・財務ポジションへの転職で書類通過率や年収条件に差が出やすいです。連結決算・税効果会計・管理会計など、1級で学ぶ内容が実務で直接役立つためです。
すでに経理職で働いている人が、さらに上のポジションやより規模の大きい会社を目指す場合、1級取得は十分に意味のある投資です。
実務経験がない人:年齢リスクに注意が必要
一方、実務経験がない状態から経理職に転職する場合は、状況が異なります。
経理・会計職の転職では、年齢が非常に重要な要素です。
実務未経験での転職可能性は、年齢とともに連続的に下がっていきます。「ここまではOK・ここからはNG」と明確に線引きできるものではありませんが、おおよそのイメージとしては以下のとおりです。
20代前半〜半ばは、ポテンシャル採用の枠が広く、比較的転職しやすい時期です。20代後半になると選択肢は狭まりはじめますが、まだ十分に戦える年齢です。
30代に入ると状況は変わってきます。30代前半でも早いうちに動けるかどうかで結果が変わりますし、30代半ばを過ぎると未経験採用の窓口はかなり狭くなります。40代以降の実務未経験からの経理転職は、ほぼ困難と考えておく必要があります。
注意してほしいのは、「1級さえ持っていれば年齢のハンデを補えるか」という点です。残念ながら、実務未経験の場合は補えないことがほとんどです。
未経験採用の多くは「若さ×ポテンシャル」が評価軸になります。資格の水準よりも、「いまから育てられる年齢かどうか」が判断の中心になるためです。
簿記1級の取得には500〜1,000時間、さらに年2回しか試験がないことを考えると、取得までに1〜2年かかることも珍しくありません。その間に年齢が上がり、転職の窓口が狭まるリスクがあります。
実務未経験で転職が目的であれば、まず2級を取得したうえで転職活動を始めることを優先してください。 1級は転職後に取得しても十分間に合います。
上位資格を目指す場合、1級を経由する必要はない
公認会計士・税理士といった上位資格を目指す場合も、「1級を取ってから」という順序は必須ではありません。公認会計士試験に受験資格はなく、年齢・学歴・資格の有無を問わず誰でも受験できます。
公認会計士試験の財務会計論は、1級よりも深い内容を扱います。「1級→公認会計士」という順序を取る必要はなく、2級取得後にそのまま公認会計士の学習に入って問題ありません。
ただし、公認会計士の学習は1級の内容を包含しています。そのため、モチベーション維持のマイルストーンとして、勉強の途中で1級を受験するという選択肢はあります。
上位資格の学習は長期戦になることが多く、途中で「自分の実力がどこまで来ているか」を確認したくなる場面があります。そういうときに1級合格という明確な目標を設けることで、学習にリズムが生まれ、モチベーションを高く保ちながら続けられます。
ただし、公認会計士試験と1級は問題形式が異なります(1級は計算の比重が高く、記述式も含む)。腕試し的に受験するにしても、過去問や直近の出題傾向を確認して多少の対策はしてから臨む方がよいでしょう。
💬 著者コメント
私自身、公認会計士の学習を進めながら、一時期1級の勉強をしていた時期があります。子育てや仕事の状況が変化したタイミングで公認会計士受験をいったん休止し、そのあいだ簿記1級を勉強していました(詳しい経緯はこちらの記事に書いています)。ライフイベントで受験継続が難しい時期に、学習の形を変えて続けた経験として、1級が役立ちました。「1級を取ってから公認会計士へ」という順序は特に必要ありませんが、長期学習のなかでマイルストーンとして活用するのは、悪い選択ではないと思います。
公認会計士試験の全体像については、公認会計士試験の概要|試験科目・合格率・勉強時間をわかりやすく解説で詳しく解説しています。
簿記1級が「意味ある人」の条件
一方で、1級に取り組む価値がある人も確かにいます。
1. 会計のプロとして深く専門性を磨きたい人
財務会計・管理会計・原価計算を体系的に学びたい人には、1級は優れた学習体系を提供してくれます。「資格として持ちたい」というより、「学習目的として取り組む」という人には向いています。
2. 経理実務を積んだうえで、上場企業・グループ会社へのキャリアアップを目指す人
連結決算・税効果会計・金融商品会計など、上場企業特有の処理を扱う職種では、1級の知識が直接役立ちます。実務経験と1級の組み合わせは転職市場で高く評価されます。
簿記1級が「不要な人」の条件
1. 公認会計士を目指す(または検討している)人
「1級→公認会計士」という順序は必須ではありません。2級取得後にそのまま公認会計士の学習に入ることができます。ただし、長期学習のモチベーション維持のために途中で受験するという使い方はありです(前述のセクション参照)。
💬 著者コメント
「公認会計士を目指すかどうかまだ決めていない」という段階なら、1級の前に一度立ち止まって考えてほしいです。1級に費やす500〜1,000時間は、公認会計士の学習に充てることもできます。どちらに進むべきかわからない場合は、先に公認会計士を目指す前に確認してほしいことを読んでみてください。
2. 転職・就職のために簿記を取った人
経理職への転職が目的であれば、2級で十分なケースがほとんどです。1級よりも実務経験や他のスキルを積む方が効果的です。
まとめ:1級は「目的が明確な人」だけが取ればいい
簿記1級は優れた資格ですが、「とりあえず上を目指す」という理由で取る必要はありません。
こんな人には意味がある
- 会計を深く専門として磨きたい人
- 上場企業の経理・財務部門を目指す人
- 上位資格の学習中にモチベーション維持のマイルストーンが欲しい人
慎重に考えてほしい人
- 転職が主目的で、実務経験がなく、すでに20代後半以降の人(年齢リスクがある)
- 「1級を取ってから公認会計士」という順序を考えている人(その順序は必要ない)
2級まで来たら、次のステップを明確にしてから動くことをおすすめします。
公認会計士を検討しているなら、公認会計士試験の概要や公認会計士を目指す前に確認してほしいことを参考にしてください。
💬 著者コメント
1級は「悪い資格」ではありません。私自身、一時期勉強していましたし、長期間学習を続けるなかでその内容は公認会計士の勉強とも連動していました。ただ、「何のために取るか」が曖昧なまま時間をかけることにはリスクがあります。特に転職目的の場合は、年齢と実務経験の組み合わせを最優先に考えてください。1級は、目的と状況が合う人だけが選べばいい資格です。


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